#07 『マネーボール』【ノーパン映画レビュー】
- 投稿日:2017/02/09 19:00
- 更新日:2017/04/05 04:25
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連載
崖っぷちパラシュートガールのノーパン映画レビュー
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映画『マネーボール』
—バカという生き方。—
Moneyball(2011・アメリカ合衆国)
こんにちは
“崖っぷち・パラシュート・ガール”
本部 萌です。
今回は今年初の野球映画だよ!!
ブラピ主演でみなさんの記憶にも新しい『マネーボール』(2011)でございます。
最近じゃなかなかの傑作と名高い映画ですね。観た方も多いんじゃなかろうか。
でもちょっと変わった野球映画なのです
まあ野球映画は野球映画なんですが。これ、世にあふれるたくさんのそれとは一線を画しておりまして。
というのもまず、主役は選手ではなくGM(ゼネラルマネージャー)なんですね。
なので野球映画と聞いて最初に期待するような、奮闘する選手たちの成長物語、とかじゃ決してなく、
野球界の裏側で繰り広げられる経営者たちの「戦い」と「革命」のヒューマンドラマ、
まあこんなところでしょう。
この映画が見せてくれる最大の熱は、ブラピ演じる元選手のGM、ビリー・ビーンと彼の若き補佐ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)の二人が世界中から後ろ指をさされながらも、“セイバーメトリクス”と呼ばれる統計学の分析手法を用いて低予算で弱小球団を立て直そうとする孤高の奮闘ぶりにあります。
更に申しますとこの映画は実話を基に作られているんですね。
(ここ最近の映画が実話ばっかり取り上げる件に関しては嘆かわしく思うところが多々あるのですが、まぁ長くなるので言及するに留めておきましょう)
貧乏球団オークランド・アスレチックスが奇跡の20連勝を挙げる描写とか、試合展開までかなり忠実に再現しているのだとか。
さらに例のごとく原作もちゃんとあります。
マイケル・ルイスさんという人が2003年に発表した『マネーボール 不公平なゲームに勝利する技術』で、結構なベストセラーになりました。
私はもちろん読んでないんですが、どうやらこの原作にはドラマチックなストーリー性などへったくれもないらしく、
しかし、それにしてはそんな原作をここまで映画的に「感動の実話」たらしめた脚本家陣の手腕にはただただ感服するところなのでございます。
完全なる弱者が、大いなる革命を起こそうとする。
数字で野球を見る、という一見夢も情もないことをやっている二人ですが、
その裏側に秘めた彼らの挑戦と革命への執念、そしてビリーの劣等感や過去への悔恨の念なんかが幾重にも重なって、
そんなふうにあがいている「カッコ悪い」ブラピの姿に観客が感情移入をしてしまう良作なのです。
てことであらすじ。
ビリー・ビーンは、かつて超高校級選手としてニューヨーク・メッツから1巡目指名を受けたスター候補生だった。スカウトの言葉を信じ、名門スタンフォード大学の奨学生の権利を蹴ってまでプロの道を選んだビーンだったが、鳴かず飛ばずの日々を過ごし、さまざまな球団を転々としたのち現役を引退。スカウトに転進し、第二の野球人生を歩み始める。
2001年のディビジョンシリーズで、オークランド・アスレチックスはニューヨーク・ヤンキースの前に敗れ去り、オフにはスター選手であるジョニー・デイモン、ジェイソン・ジアンビ、ジェイソン・イズリングハウゼンの3選手のフリーエージェント移籍が確定的となった。この時アスレチックスのGMに就任していたビーンは、2002年シーズンに向けて戦力を整えるべく補強資金を求めるも、スモールマーケットのオークランドを本拠地とし、資金に余裕の無いオーナーの返事はつれない。
ある日、トレード交渉のためにクリーブランド・インディアンスのオフィスを訪れたビーンは、イエール大学卒業のスタッフ、ピーター・ブランドに出会う。ブランドは各種統計から選手を客観的に評価する『セイバーメトリクス』を用いて、他のスカウトとは違う尺度で選手を評価していた。ブランドの理論に興味を抱いたビーンは、その理論をあまり公にできず肩身の狭い思いをしていた彼を自身の補佐として引き抜き、他球団からは評価されていない埋もれた戦力を発掘し、低予算でチームを改革しようと試みる。
(出典:Wikipedia)
異端児が集まると奇跡を呼ぶらしい
まぁ、物語の序盤から、ブラピ演じるビリーは人生で挫折しかほとんど味わってないような、言っちゃえば「負け犬」な訳です。
選手にスカウトされる前は“5拍子揃い”の天才だってもてはやされて、大学の奨学生を蹴ってまでプロ入りしたのに一切の実力を発揮できないまま引退してしまった、いわば“咲けなかった人”という強いコンプレックスがあるのですね。
だから人生において選択を失敗することなどもう彼にはこりごり。なので自ら選んだスカウトの道で、なんとしてもアスレチックスを立て直さなくちゃいけない、その熱意はすごいんだけど今の彼にはその技術もお金もない。
しかも頭領のくせして他の経営陣とまるっきり意見は合わず、かと言ってそれを丸める能力もないただの気難し野郎なんで周りはどんどん離れて行くという積み具合。
こんな上司、絶対に持ちたくないっていう典型的なタイプなのね。
しかし。こんなふうに執念だけが友達の彼に、神様は本当の友達をプレゼントしてくれたのです。
それがジョナ・ヒル演じる、インディアンスのスカウト、ピーター・ブランド。
一見お門違いなセイバーメトリクスを用いるという、これまた理解者のいない変なヤツ。
ついでに言うと、見るからにオタク。
しかし彼のその理論にアスレチックス復活の兆しを見出したビリーは、すぐさま彼を自分の補佐に置き、潜在能力のある過小評価された選手たちを次々に引き抜いていくのです。
つまり先鋭的な人間ってのは、最初のうちはいつだって孤独に戦わねばならないのですよ。
ところが同じパイオニア精神を持つ人間が二人合わさったとき、
「こいつを見つけた!!」という喜びが結束力を生み、
その結束力を持ち続けた結果、新時代が作られるという
素晴らしい方程式ができあがるんですねー。
映画的でしょ?
まあしかし現実は厳しいのね。これ実話だしね。
新しいことを始めるにはそれ相応の責任という重たい十字架を背負い続けなくてはならないのであります。
GMの孤独
このタイミングでなんか、なんかなんですが私今まで数えきれないくらいの仕事をクビになってきました。
そんでまた、私みたいに学習しない人間ってのはね、自分なんかをクビにする奴にセンスがないんだよばか野郎って思ってしまうのですね。困ったね。
でもクビにするほうだって首切りの辛みってのがあるんですね。それは弱肉強食の野球界においても同じ。
このあたりは野球映画が好んで描く大事な心理描写ですね。
何が言いたいかというと、GMという立場の苦しさもこうした場面でしっかりこの映画は伝えているってことです。
自身が選手として挫折した経験から、ビリーは選手をクビにするときの後ろめたさを避けて、ハナから選手と交流を持とうとしないんです。
とはいえ訳わからん理論でへんてこな選手ばっかり集めて、シーズン開幕しても惨敗続きのアスレチックスなので、選手たちの士気もどん底、更には彼らでさえビリーとピーターへの信用を失ってしまうのですね。
ちなみにこの映画では脇役ってことになるけど、この選手たちも実際の元野球選手を起用してるんだって。アメリカ映画ってこういうところが偉いよね。
(余談だけど開幕時のBGMがジャーニーのDon’t Stop Believin’で笑ってしまった。野球界ってなんでこんなにジャーニー好きなんだろうか)
しかし7月までに必ずアスレチックスを立て直す、と宣言した手前、ビリーは自分がなんとかしなくてはと、自ら選手たちのコーチに回ります。
私野球詳しくないけど、でもGMが選手とここまで深く交流するってなかなか無いんじゃないかな。
彼らにもセイバーメトリクスを教え、その理論通りに選手たちのまだ見ぬ才能を開花させていくのです。
ビリーとピーターの二人の間で終始していた絆が、チーム全体を巻き込んでいくのですね。
するとみるみるうちにチームは連勝を重ねていきます。面白いくらいいきなり。
これが史実だっていうんだから驚きよね。
そしてなんと前人未踏の20連勝を達成してしまうのであります。
・・・ところでこの「実話です」パワーが持つ説得力って卑怯なくらい強力じゃない?
アスレチックスが途中までぶっ続けで連敗してても、実話を映画化してるって前情報のせいで観客は「あ、あとで上がってくるんだな」って安心しちゃうわけですよ。
と同時に、「こんなヤバいことが実際にあったのかすげぇ!」って無理やり自分を納得させるという。
この「実話パワー」は2000年代以降かなり姑息めいた怪しい範囲で使われているけど、過去にはそれを逆手にとって、まったくのフィクション作品を「実話です!」って言いきっちゃった作品がありましたね。
コーエン兄弟監督の代表作『ファーゴ』(1996)です。1987年にミネソタ州で実際に起きた殺人事件を基に作ったよって冒頭で流れるんです。
とはいえこの映画、ミネソタのようなド田舎で実際に起こる可能性などひとかけらもない完全なフィクションなんですね。ぶっ飛んだ連続殺人鬼がありえないミスをしでかしてしまうという。
「実話です」という大ウソを演出としてやっちゃったのです。
しかしそれが嘘だと後にコーエン兄弟が白状したのを知っていたひとは当時アメリカ人以外ほとんどおらず・・・
あろうことか、この映画が事実だと信じ込んだ日本人女性が、作中で描かれた殺害現場に行って、映画の中では例の殺人鬼がしくじってそこに大量のお金を眠らせてしまうという設定なのですが、その人本当に探しちゃって、探しているうちに寒くて凍死してしまうという事件まで起こっちゃったのですね。
そして2015年にこちらの事件も映画化されてます。『トレジャーハンター・クミコ』っていう映画。
あ、こっちはちゃんと実話ベースです。
ね。実話の影響力って恐ろしいでしょう。
映画だからといって簡単に信じるべからず。
新時代を築く人間とは
とまあ話を戻しまして
弱小球団アスレチックスは20連勝という形で新たな歴史をつくったんですが、
あと一歩のところで優勝できなかったんですよーーー。
最後まで優勝にこだわっていたビリーに、アスレチックス優勝を期待していた世間の風は今日でもまだ決して暖かくはないでしょう。たぶんぬるめくらい。
しかし現在ではセイバーメトリクスは“マネーボール理論”として野球界で一般に用いられ、新たな功績を残したことは事実です。
映画のラスト、エンドロールの直前に字幕で「ビリーは今もなおアスレチックス優勝に向けて挑戦中である」って出るんですけど、
これまたおばあちゃんみたいなこと言っちゃうと最近の洋画はなんでも最後字幕で片づけやがって変な流行りかよって最初は思ったんですが、
しかしよく考えるとこの、現在のビリーの状況を字幕だけで伝えるっていうのはね、すごく意味深い演出だと思いますね。
まずやっぱり時系列の違う事実を字幕で表現することで、事実の物語といえども映画本編のフィクション性を強調できるということ。
そして、この映画を20連勝のハッピーエンドで終わらせず、字面だけで尻切れトンボにすることでこの物語そのものが今なお現実に続く未完成のドラマなのだという最大のメッセージを伝えてきているんですね。
さらにその意図からは、『マネーボール』に携わった人たちすべてが、野球の中にまだ見ぬ可能性という「夢」をみているんだなぁ、とも考えさせるのです。
これは映画冒頭に流れるどなたか(忘れた)の言葉の引用、
「野球の奥の深さにはつくづく感動させられる」という言葉に最終的に戻っていくという、
非常にきれいな結びなんですね。
この作品は野球界の裏側を描いているので根性論とかそんな説教臭さはないんですけども、
革命はひとりでは起こせない、というパイオニア精神論たるチームワーク、そして根拠のない自信からくる不屈の精神、
これらが先駆者たる人間にとっていかに不可欠かっていうのを分かりやすく教えてくれましたね。
例えば何百万枚売り飛ばす天才アーティストだって優秀なプロデューサーがいるわけだし、
ライト兄弟だってリュミエール兄弟だって片割れだけだったら発明できなかったと思うのね。
しかも飛行機だの映画だのって当時からしたら黒魔術使うのかってくらいあり得ないことに命注いでいたんですよ。
「大事なのは何が重要なのかではなく、自分が何を信じるかだ」
っていうビリーの言葉、これに全部が詰まってる。
そうなんすよ。
新しいことをする人って、要するにバカなんですよ。
バカって才能。バカだから始められるの。
現実ではまだ大成はしていないビリー・ビーンさんですけど、
“弱者”からスタートしてここまで這い上がってきた愛おしいおバカなビリーさん、
たぶんこの映画のおかげでみんなが応援したくなってる気がしますね。
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執筆者プロフィール
執筆者:本部 萌
1990年12月26日 沖縄生まれ。東京育ち。
159センチ
スリーサイズ: B70, W55, H90
■活動内容
2013年明治学院大学文学部芸術学科映像芸術学専攻を卒業後、小劇場をメインに下積み女優活動を展開中。アローズプロ所属。
休みの日には映画館と自宅で年間約300本の映画を鑑賞するほぼ引きこもり生活を送る、「映画と結婚した独身専業主婦」。
たまに出るDJイベントでは60〜80年代の洋楽チューンを担当、特に80年代ニューロマンティックをこよなく愛する。
ヤクルトスワローズのマスコットキャラクター「つば九郎」のフォルムと毒気に惚れ込み、シータの如く神宮球場の空から舞い降りてつば九郎の頭にスカートを被せたい密やかな夢を抱いているが、野球そのものに関しては1チームが何人構成かも知らないくらいの知識。
阿佐ケ谷のミニシアター“ユジク阿佐ケ谷”、新宿ゴールデン街のロックバー“Happy”、野球バー“ぺんぎん村”で働く。
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